離婚の日、夫が渡した古い腕時計。5年後、職人が「奥様、この中に…」
2026/10/21
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離婚届に判を押した日、夫はほとんど何も言わず、玄関で古い銀色の腕時計を私に押しつけました。結婚二十年、子どもに恵まれなかった私たちの暮らしは、静かで、穏やかだと信じていたのに、夫は突然「別れてほしい」と告げたのです。理由はただ一つ、「もう君を愛していない」。五年後、引き出しの奥からその時計が見つかりました。止まった針は二時二十分。捨てられずに駅前の時計屋へ持ち込むと、白髪の職人は裏蓋を見つめたまま顔色を変えました。「奥様、この中に文字が掘ってあります」――そこには、夫の手で刻まれた短い言葉がありました。「僕の時間が止まっても、君の時間は進みますように」さらに職人は、五年前に夫が修理に来て、「病気で記憶を失う前に、妻を自由にしたい」と託していたことを明かします。二時二十分は、私たちが初めて出会った時間でした。療養施設で再会した夫は、もう私を覚えていませんでしたが、時計だけは懐かしそうに見つめました。私はその隣で、彼の分まで記憶を抱えて生きると決めたのです。

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