東京・麻布の高層マンションで、70代の資産家夫婦が忽然と姿を消した。玄関には鍵が残り、財布も携帯も外出着もそのまま。食卓には食べかけの朝食だけが静かに残され、まるで二人だけが空気に溶けたかのようだった。 夫婦は総額43億円ともいわれる不動産王。遺したのは、長女、証券マンの次男、父の事業を継ぐ末っ子の三人。だが、三人は口をそろえて「その日、両親と連絡が取れなかった」と証言する。通報はなぜか二日後だった。 警察は防犯カメラ、近隣住民、家族関係を徹底的に洗ったが、手がかりは一つも出なかった。事件は未解決のまま25年が過ぎる。 そして2020年、再捜査班が渡辺公一名義の貸金庫を開けたとき、そこには一通の封書が眠っていた。差出人不明ではない。遺された本人の筆跡で、こう記されていた。 「私が死んだら、これを警察に届けてください」 10億円の遺産、三人の子供、そして封じられた真実。あの失踪の夜に何が起きたのか――すべては、この手紙から動き出す。