1992年6月16日の朝、東京都渋谷区の一戸建てから、28歳の長谷川幸子は忽然と姿を消した。 夫が目を覚ますと、隣の寝床は空。台所にも洗面所にも見当たらず、タンスを開ければ衣類が数着消え、引き出しにあった印鑑と通帳までなくなっていた。しかし、机の上には青い日記帳だけが開いたまま残されていた。最終ページは6月14日。そこには、夫の女を母に見たこと、そして「我慢しなさい」と言われても、もう耐えられないという苦しい告白が記されていた。 夫はすぐ警察に届け出たが、捜査は進まず、失踪は単なる家出として処理された。それから14年後の2006年春、一本の電話が渋谷警察署に入る。 「14年前に行方不明になった長谷川幸子さんの家で働いていた者です」この通報をきっかけに、長谷川家のボイラー室の壁が壊される。 崩れたセメントの奥、狭く閉ざされた空間から現れたのは、14年間一度も家を出ることのなかった幸子の遺体だった。そして、時効成立のわずか1年前、夫は緊急逮捕される。 あの夜、この家で何が起きたのか――事件は静かに、しかし残酷に真相へと近づいていく。