都内のホテルラウンジで瑞稀は、震える声で「私は、お姉さんではありません」と頭を下げた。姉に逃げられ、身代わりで来たと告げれば、目の前の見合い相手・望月秀平は怒るはずだった。だが彼は丸眼鏡の奥で静かに笑い、「では、僕のほうからお断りしたことにしましょう」と返した。責めるどころか、瑞稀が困らない道を先に選んだのだ。その一言で、早く帰るはずだった瑞稀の予定は崩れた。会話を重ねるうち、彼は彼女を姉の代わりではなく、一人の人間として聞いてくれた。派手な髪色も、家族へのわだかまりも、最後まで遮らず受け止める。その優しさに、瑞稀の心は少しずつほどけていく。やがて交際、そして結婚へ。だが友人たちから「もっと普通の人を選べる」と言われた時、瑞稀は気づく。最初に“冴えない”と決めつけたのは、自分自身だったのだと。