アメリカ西海岸の南北に広がる大都市圏の狭間に、北海道のおよそ2倍という広大な広さを持ちながら、まるで時間が止まったかのような「空白のエリア」が存在します。人口密度が極端に低いこの秘境は、なぜ現代に至るまで大都市から取り残されてきたのでしょうか。その最大の理由は、海岸線からそびえ立つ険しい山々と深い谷が織りなす過酷な地形にあります。北のオレゴンや南のカリフォルニアのような開けた平野に恵まれず、火山や万年雪を戴く急峻な山岳地帯が人々の定住を拒んできました。さらに、沖を流れる冷たい海流がもたらす深い霧と、船を安全に受け入れる港の乏しさが、物流や都市発展の道を閉ざしてきました。19世紀のゴールドラッシュや開拓の波も、この中央の山岳地帯を避けるように両側を通り過ぎていきました。かつて林業で栄えた街々も時代の変遷や環境保護の波の中で変化を余儀なくされ、現在では山火事の脅威や州からの独立を目指す「ジェファーソン州」構想といった独自の歴史と課題を抱えています。巨木の森や日本一深い湖、手つかずの海岸線が息づくこのエリアは、不便さと引き換えに圧倒的な大自然の美しさを守り抜いてきた、アメリカ西海岸の知られざる素顔なのです。