澄子が息子夫婦と同居を始めた日から、彼女の生活は家族のために捧げられる日々に変わった。70歳という年齢にもかかわらず、毎朝5時に起きて弁当を作り、孫の日向を学校へ送り迎えし、家の雑務をこなしていた。嫁のリナが残業で遅くなる夜には夕飯や風呂の支度まで済ませていたが、この3年間、彼女は一円も受け取ることはなかった。そんな澄子が、台所で一人梅干しのおにぎりを握っていた昼下がり、リナから「食材は家族の共有ですから、勝手に使うのは困ります」と微笑みながら告げられる。たった一つの梅干しで「勝手」と言われる日が来るとは、澄子には予想もしていなかった。一週間後、嫁のリナは同居解消の意向を伝えた。「お母さんにもご自分の生活を大事にしてほしい」と告げる言葉に、息子の賢一は何も言わずうつむくばかり。翌朝、澄子は荷物をまとめ、小さなノートに記録していた家事労働の金額換算に目を通し、3年間分の金額が架空ではあるものの何百万円にもなることを知る。ノートはゴミ箱へ捨てたが、「梅干し一つも許せない人には、私の味は渡せない」と静かに家を出た。その後、澄子はアパートで子供食堂のボランティアを始め、子供たちに囲まれる充実した日々を送る。やがてその活動は地元紙に紹介されるほどの話題となり、孫の日向から「おばあちゃん、雑誌で見たよ!すごいね!」とメッセージが届く。澄子は「遊びに来てね。美味しいものを作って待っているから」と返事をし、優しさを込めた言葉で答えた。