1972年、ミュンヘン五輪の女子体操会場で、世界を凍りつかせる瞬間が訪れた。 ソ連の伝説的選手、オルガ・コルブトが披露したのは、のちに「コルブトフリップ」と呼ばれる大技だった。段違い平行棒の上に立ち、後方へ宙返りして再びバーをつかむ――当時の常識を真っ向から壊す演技である。 演技は驚くほど軽やかで、観客の目には美しく滑らかに映った。しかし、その裏側は命がけだった。わずかな踏み違い、つかみ損ねがあれば、骨折や重傷に直結する危険な技。会場は息をのみ、その異様な緊張感に支配された。 それでもコルブトは完璧にやり遂げ、世界を震撼させながら金メダルを獲得する。だが、その代償は大きかった。あまりに危険すぎるとして、大会終了後に即時禁止。以来、この「死の宙返り」はオリンピックの舞台から完全に封印され、二度と披露されていない。伝説だけが、今も語り継がれている。