四十二年間、同じ工場で働き続けた男の退職金二千百万円。その金額を伝えた瞬間、息子夫婦の隠れていた本音が見えてしまいました。私は66歳の正雄。北関東の小さな町で、妻の節子と二人で暮らしています。この春、長年勤めた工場を定年退職し、手にした退職金は二千百万円でした。通帳を見ながら、妻と静かに笑いました。これからは月に一度温泉へ行き、雨漏りしている屋根を直し、残ったお金は二人の老後のために大切に使おう。そう決めていました。退職を伝えた翌週、半年ぶりに息子夫婦が訪ねてきました。食卓に広げたのは、一枚の二世帯住宅の間取り図でした。「父さん、一緒に暮らそう。頭金は二千万円あれば大丈夫だよ」嫁の彩さんも笑顔で続けました。「お父さんの部屋もちゃんと作ります」その言葉を聞いた時、私は胸が温かくなりました。家族が自分たちのことを考えてくれていると思ったのです。