真冬の寒さが一段と厳しい夜、路地裏の診療所「吉田医院」では院長の吉田医師が一人、閉院準備をしていました。その時、外から小さな声が聞こえました。「誰か、妹を助けてください!」。扉を開けると、10歳ほどの少年が体調を崩した妹を背負い、必死に立っていました。妹の顔は蒼白で、手で触れると氷のように冷たく、熱は39度を超えていました。少年は「僕じゃなくて妹だけを診てください」と懇願しましたが、吉田医師は無言で毛布を2人にかけ、温かいスープとおにぎりを差し出しました。妹が少しずつおにぎりをかじる中、少年はポケットからわずか100円玉を差し出し「これしかありませんが」と謝りました。吉田医師はその小さな手を包み、「お金なんかいらない。この寒い夜を乗り越える力は君が妹を連れてきた事実そのものだ」と微笑みました。それから15年、すっかり老朽化した診療所に一人の青年が訪れます。「覚えていますか、あの冬、妹を診てくれた僕です」。吉田医師が驚きの面持ちで青年を見つめると、彼は続けました。「先生のような医者になりたくて、医者になりました。そして、妹も看護師になったんです。この診療所を僕たちに継がせてください。必要な費用も準備しましたから」。その言葉に目を潤ませた吉田医師は深く頷き、「君たちになら任せられる。この診療所を頼んだよ」と言いました。