冬の朝、城下町の荒物屋の前に、一人の痩せた男が倒れていた。かつて武家の威厳を誇った陣衛門――水野家の屋敷を乗っ取り、義妹のおふを追い出した男である。店の女主人は黙って白飯と温かな汁を差し出した。男が顔を上げた瞬間、二人の視線がぶつかった。女の名は、おふ。八年前、屋敷で花を愛でていた元お嬢様だった。若き日のおふは、屋敷で下男として働く伝次にだけ心を向けていた。字も数も知らぬ彼に、帳簿の読み方や算盤を教えたのは彼女だった。しかし父の死後、陣衛門が家督を奪い、伝次を追放。おふも望まぬ縁談に出され、やがて夫に先立たれ、帰る家さえ失う。誇り高き元令嬢は、井戸端で水を汲み、日雇いで生きる未亡人となっていた。