1989年、東京・世田谷。東大首席で、司法試験の合格発表をわずか3日前に控えた青年が、突然姿を消した。 最後に彼を見たのは実の兄で、「一人になりたい」と言って家を出た――そう証言したという。家族は誰も、彼が合格目前の重圧に耐えきれず消えたのだと思い込んだ。だが、捜索は空振りのまま年月だけが過ぎる。1年、5年、10年。父は息子の帰りを待ち続けた末、真相を知らぬまま亡くなった。 そして14年後の2003年、建て替え工事のために地面を掘り返した瞬間、地下1.5メートルのコンクリートの隙間から、信じがたい痕跡が見つかる。彼は自ら消えたのではなかった。家族が踏みしめてきたその床の下に、ずっといたのだ。では、誰が彼をそこへ追いやったのか。 そして、最後に見た兄の証言は、なぜ14年経っても揺らがなかったのか。事件は、静かに封じられていた。