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母に財産を要求された日、私は手帳を開いた
2026/05/26
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祖父の三回忌が終わり、親族が去ったあとの静寂が広がるリビングで、母が言い放った。「なお、あなた独身なんだから。お金は全部お兄ちゃんに渡すよう今のうちに決めておきなさい」。思わずその言葉を何度も反芻する。兄の拓哉は当然とばかりに続けた。「そうそう、子供もいないし、ちゃんと考えておけよ」。その瞬間、この家族において、独身でいることは何かしらの「負債」だという現実に直面した。この手の話は今に始まったことではない。兄の結婚式では祝儀を増やせと言われ、80万円を包んだ。幼少の家計の宿題には毎月5万円を支出し、父の入院費や葬儀費用もほぼ私が負担した。さらには母の旅行代や生活費まで、すべて「家族だから」と自分に言い聞かせ、ただ支払い続けてきた。だが、私は誰にも言わずにしていたことがあった。それは、これらの支出を十年間にわたり手帳に記録してきたことだ。「お母さん、少し待って」。そう言って、バッグから古びたスケジュール帳を取り出した。そして静かに言った。「これ、全部家族のために使ったお金です。合計で820万円になります」。その言葉に母と兄の表情は一瞬で凍り付いた。「な、なにそれ?そんな昔の話を?」。動揺を隠せない母に向き直り、私はさらに一言だけ告げた。「財産の話は、まず返済の見通しが立ってからにしましょう」。そして玄関に向かいながら振り返った。「お父さんが生きていたら、今日のことを何と言うのかしら」。 

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