「お母さんの通帳、全部確認させてもらいました。」 その言葉が、長男の哲也と2年ぶりに顔を合わせた最初の言葉でした。夫を亡くして3年、慎ましく一人で生きてきた私の貯えを、彼は黙って確認していたのです。 「財産を守るためだよ」と言い放つ彼の目は、真心よりも数字しか映していませんでした。さらに続く言葉。「さやかに騙されてるんじゃない?」近くに住む次女のさやかは、週に何度も料理を作りに訪れてくれる、優しい娘。先月私が夜中に高熱を出した時も、2時間かけて駆けつけ、朝までそばについてくれました。それでも哲也とその妻の恵は、さやかの善意を疑い、私の財産に執着していました。 私は静かに引き出しから一通の封筒を取り出します。「厚生省認証の遺言書よ」と渡すと、哲也の顔色が変わりました。そこには、私を支えたさやかに財産の大半を渡す旨が記されていたのです。数字にしか関心がない哲也と恵への、私からの答えでした。「恵さんにも伝えて。心配しなくてもいいの」と私は告げました。 その夜、さやかが手作りの晩ご飯を持って来てくれました。味噌汁の温もりが心に沁み、思わず涙がこぼれました。「ありがとう。本当にあなたがいてくれて良かった」と伝えると、さやかも涙を流しました。血の繋がりよりも、寄り添った時間こそが絆を作るのだと、私は改めて感じました。