六十二歳の佐久間浩一は、退職後、地方都市で静かに暮らしていた。貯蓄は約二千三百万円。老後に大きな不安はないはずだった。ある日、スーパーで声をかけてきた五十代後半の女性。その控えめな優しさは、孤独な佐久間の心に深く入り込んだ。食事、服、そして三十万円の立て替え。彼は「頼られている」と感じるたび、通帳の減りを見ないふりをした。やがて二百万円の相談が来る。返済の約束は曖昧になり、貯蓄は千四百万円台へ。旧友・高橋の「それが最初の形だ」という忠告を、佐久間はようやく理解する。彼が失ったのは金だけではない。必要とされる喜びに老後資金を削られた、静かな現実だった。