六十五歳で定年退職を迎えた橋本博は、退職した翌朝、スマホの連絡先二百三十七件と向き合いながら、自分の未来に不安を感じていた。四十二年間会社員として働き続けたものの、妻も子供もいない。これから待っているのは孤独と節約だけだと思っていた。しかし、定年後の生活で彼が気づいたのは、孤独と一人の時間は同じではないということだった。最初は人とのつながりを失う恐怖から、元同僚との飲み会や興味のない集まりに参加し続けた。だが、時間もお金も減っていく中で、橋本は次第に疑問を抱くようになる。そんな時、父から譲られた古い腕時計を修理に出したことで、人生への考え方が変わった。「止まったのは時計であって、時間そのものではない」。その言葉を胸に、橋本は本当に大切な人や、自分が心から楽しめる時間を選ぶようになった。