木原龍一は、生まれつきの内斜視を理由に、心ない中傷を浴び続けた。 「手術した方がいい」「見た目が変だ」――匿名の言葉は容赦なく突き刺さる。しかし彼は、外見を直すことを選ばなかった。その裏には、三浦璃来を守るという揺るぎない覚悟があった。ペアスケートは一瞬のずれも許されない。木原にとって、内斜視は欠点ではなく、氷上で相手を確実に捉え、リフトで支えるための“感覚”でもあった。もし手術を受ければ、数カ月は複視や激しい頭痛に苦しむ可能性がある。三浦を危険にさらすことだけは、彼にはできなかった。さらに2023年末、彼は腰椎分離症にも苦しみ、立つことすら制限された。それでも二人は支え合い、モントリオール世界選手権で銀メダルをつかみ取る。 木原が守り抜いたのは見た目ではない。三浦との信頼、そして二人で氷を支配する誇りだった。