1972年の大晦日、日本レコード大賞の舞台で「喝采」の名が呼ばれた瞬間、会場は大きな拍手に包まれました。しかし、歌ったちあきなおみの表情に、華やかな喜びはありませんでした。彼女は戸惑い、涙をこらえることができなかったのです。実は、彼女自身がこの曲を歌うことを拒んだ時期がありました。「喝采」に描かれるのは、愛した男性の死を知らせる黒い縁取りの手紙を受け取りながら、舞台に立つ女性歌手の姿。その悲劇的な物語が、ちあきなおみ自身の過去の痛みと重なって見えたからです。作詞家・吉田旺が描いた世界は創作でしたが、ちあきなおみには若い頃に経験した別れや喪失の記憶がありました。だからこそ彼女の低く震える歌声には、演技では表現できない本物の悲しみが宿ったのです。