前田日明が語るちゃんこ──それはレスリングの合宿所での生活を垣間見るエピソードだった。彼が振り返る当時の食事は、毎日「ちゃんこ鍋」尽くし。朝昼晩、ひたすら鍋を囲む生活であり、時折ちゃんこ番が趣向を変えて鉄板で肉を焼く程度の変化があるだけだったという。このような日常が彼の記憶に深く刻まれている。最も驚くべきは、ちゃんこにかかる費用の話だ。一日に支給される金額はなんと二万円。その頃、大学卒の初任給が八万から十万円程度だった時代を考えると、異常なほど豪勢だった。しかし人数が少ない合宿所では、一日二万円分の食材を使い切ることは至難の業だったと言う。肉を3キロ、4キロと購入し、それでも食べきれなかった場合は猪木氏の飼っていたセントバーナードに与えるというエピソードまで飛び出した。さらに、体重増加のための食事指導も異様だった。「とにかく食べろ」という命令が飛び交い、新弟子たちは毎日必死に食べ続けた。合同練習の日の食事では山本小鉄氏が監視役となり、「お前、今何杯目だ?」と尋ねながら、真剣な目で弟子を見守る。その厳しさはレスリングの世界における体力と精神力の鍛錬を象徴していた。