「ふざけるな。」その言葉が、こっちの賢人の心に強く響いた。兄の田将生が歌手デビューを果たしたとき、賢人はその成功を素直に受け入れることができなかった。自分の人生に残された唯一の希望だった音楽まで、兄に取られたように感じたのだ。しかし、アカペラの全国大会で優勝した兄の姿を見た賢人は、自分の小ささに気づき、音楽の道から一度は離れる決断をする。「歌手は向いていない」と感じ、大手企業に就職した。しかし、家族が兄の活躍を誇らしげに見守るたびに、賢人は次第に孤独と焦燥感に苛まれ、うつ病を発症してしまう。そんな暗闇の中で、彼が生み出したのは、鬱をテーマにした手紙のような歌詞だった。その曲が話題となり、アーティストとして再び脚光を浴びた賢人。彼は、「僕にとって兄は憧れの人であり、彼が自分を認めてくれたからこそ、こっちの健人として立つことができた」と語った。兄との比較で苦しんできた賢人が、ようやく自分自身を見つけ、音楽という道で光を見出した瞬間だった。