荻お姉さん、今年もお正月の準備ありがとうね、と夫はいつも通り気軽に言った。私、今年で62歳になります。結婚してから40年、家族の集まりを一度も休まずに支えてきました。お母さんの介護だって、15年間一人でこなしました。お正月もお盆も食事の準備から片付けまで、すべて私の役目でした。でも、それが「家族」というものだと思い込んでいたから、今まで不満も言わずやってきたのです。還暦の日、家族を自宅に招いた私は、夫が買ってきた小さなケーキを見ました。食卓に並べられたそのケーキにはろうそくもなく、誰一人「還暦おめでとう」と声をかけることすらありませんでした。子供は熱があるからとすぐに帰り、夫はソファーでテレビを見ながら「早く片付けろよ」と投げかける。その夜、一人きりの台所で私は静かに心に決めました。次のお盆、夫から電話が来ました。「今日みんな集まるけど、料理はどうする?」と。私は静かに答えました。「今日は行きません。あなたが言ったじゃないですか、家族のことは家族でやるって。だから、そちらでどうぞ。私は40年、十分やりました」。その日、私は初めて一人で温泉旅行に行きました。広がる絶景を眺めながら思いました。「私は、よく頑張った」と。そして、自分の人生を取り戻すことに間違いなどないと感じたのです。