イチローがグラブの紐を緩めている理由は、彼がグラブを体の一部として感じたいという独自の哲学に基づいています。ボールを捕らえる際、紐を結ぶとその感触が曖昧になるため、グラブの先まで神経が通っているかのような感覚を追求した結果、特定の箇所で紐を結ばない選択をしたのです。このこだわりは、グラブ職人が坪田さんから岸本さんに変わった際にも影響を受けました。新しい職人の岸本さんは、イチローの要求に応えるために約八十個もの試作を行い、柔らかさと軽さを兼ね備え、緩やかに紐を緩めたデザインのグラブを提供しました。このバランスを見つけることは難しく、イチローは引退するまで常に調整を続け、その徹底したこだわりが彼のプレーに活かされていたのです。イチローの詳細への注意が、彼を傑出した選手たらしめた一因となっていることは疑いありません。